潮の満ち引きはなぜ起こる(続き)

まず昨日書いたことを整理する。
地球上の月側の地表と月から見た裏側の地表にはそれぞれ3つの力が加わっている。
地球の自転による遠心力、地球と月の相互回転による遠心力、月の重力だ。

まず自転の遠心力というか遠心加速度を求めてみる。
地球の半径をおよそ6400キロとして、これが約24時間で一回転する。
これらを元に計算すると、地球の自転による赤道付近での遠心加速度はほぼ0.03349m/s2となる
これは地上の重力加速度9.8m/s2の約0.3%程度と非常に小さいため、地球上のどこにいてもこの遠心力を意識することはないわけだ。
これがどのくらいの差かというと、体重70キロの僕が北極と赤道直下で体重を量ると赤道付近では200g軽くなる計算。


次に地球と月の相互回転。
昨日の図に書いたように地球は地表から1700キロほど下あたりにある月との共通重心を中心に回転運動をしている。
月と反対側は半径11100キロの、月に近い側は半径1700キロの、27.3日周期(月の公転周期)の回転運動をしていることになる。
となると月と地球の相互回転によってかかる遠心加速度は、月側で0.000012m/s2、月から見た裏側で0.000081m/s2になる
うわ小せえ!
この数値は地球の自転によって発生する遠心力のさらに二桁ほど小さいレンジの数値になる。


最後に月の重力。
月の重力は地球が地球と月の共通重心を中心に回っているときに地球の中心が受けている遠心力とバランスしていることから容易に求められるが、月の側と反対側では地球の直径分だけ重力の影響が違ってくる。
計算によると月の重力加速度は地球上の月側の地表では0.00003554m/s2、月と反対側の地表では0.00003325m/s2で、月側のほうが6%ほど大きい。
この差は潮汐力と呼ばれている。この文脈ではちょっと混乱する名前だが。


これらの3つの力を向きに気をつけながら合成すると、月側・裏側どちら
0.03354m/s2程度の外向きの力が働いている
ことになる。
一方、月から見た地球の側面は月の重力や相互回転の遠心力は地面に対して水平方向に働くので潮汐に対する影響は無く、この付近では海水に対する鉛直方向の力は地球の自転による0.03349m/s2だけになる。

この差が潮の満ち引きに関わる部分であるとすると、月側及び裏側と側面で海水が受けている力の差はおよそ0.14%程度ということになる。
地球の重力の0.3%のさらに0.14%ということで非常に小さなものだが、半径6400kmものジオイド面をせいぜい10m、つまり0.00016%程度上下させる力としては妥当な範囲におさまったとも思える。
今回の計算では本来は楕円なものを正円で近似したり有効桁数を乱暴に扱ったりしているが、出てきた数字に関しては大雑把なイメージを助ける程度の精度にはなっていると思う。


ついでに、その他に僕が思いつくあと2つの地球の回転運動についても付け加えておく。
ひとつは太陽系内での地球の公転。
もう1つは銀河系全体の回転だ。
この二つなのだが、実はこれらは潮汐にはほとんど影響が無い。
潮汐に影響があるのは回転の半径が地球の大きさに比べて比較的小さいときだけで、そのときは回転の中心側の地表と回転の外側の地表で遠心力や重力の影響に差が出るのだ。
回転の中心が地球の大きさに比べて十分に大きい場合は内側外側どちらの地表でも重力と遠心力がほぼバランスしてしまう。
試みに地球の太陽を中心とした公転での重力と遠心力の影響を計算してみたが、月と地球の相互回転に比べてさらに4桁くらい小さい数値になってしまった。
計算していないが、銀河系の回転に関してはこの数値はさらに10桁以上小さくなってしまうだろう。