性犯罪の再犯は情報公開で防げるか

どうにもこの件が話題なのでそのうちなにか書こうと思っていたら、あちこちでたくさんの人がコメントしててこれ以上のコメントは必要無い感じになってしまった。
なにか新しい視点が提供できるだろうか。
とりあえず書き始めてみるか。


僕が考えていた視点はだいたい以下のような感じ。

  • 1.再犯率は本当にそんなに高いのか?統計の捻じ曲げた解釈が行われていないか
  • 2.性犯罪者の情報が公開されると、本当にそれをもとに自己防衛できるのか
  • 3.情報公開で再犯はほんとうに防げるのか

1については統計を探してみようと思っていたのだけど、羊堂本舗さんに全部書いてあった。
 メディアで使われている性犯罪者の再犯率は嘘
 法務省犯罪白書の歩き方
羊堂本舗さんでは3についても言及していて、結局は性犯罪者の再犯率がことさら高いかどうか分からないし、情報公開をしても効果は疑わしいということのようだ。

2の点についてはどうなんだろう。
まず、性犯罪の前科がある人は数十万人のオーダーで存在するのでかなりの密度で生活している。
性犯罪を起こした者は自宅のすぐ近くで犯行を行っているのかという統計が見当たらなかったのでなんとも言えないが、これらの人たちは自宅から離れないように暮らしているわけでもないし、接触を避けるように子供の行動圏を設定することは非常に困難に思われる。
また自己防衛に関するもう一点の問題は、再犯者の被害に会うより初犯者の被害に会う可能性のほうがはるかに高いというところだ。
警察庁の統計によると性犯罪者の再犯者率は6%くらいのようだ。
性犯罪はここ数年増えているのだが、その部分はとりあえず無視して考えると再犯率も6%強と言う事になる。*1
つまり前科のある人に最大限の注意をはらっても被害の93%以上は防ぐことが出来ないということだ。


ところで、このような情報が公開されることになると前科のある人の行動にはどのような影響が出るのだろうか。
犯罪の前歴があることを公開された人は就業等によって社会に参加する機会を著しく奪われることになるのはまず間違いないところだ。
社会的に隔絶された人たちは経済的・精神的に苦しい立場に立たされるので生活に一般の人程度の楽しみを求めることが難しくなる。
このような人たちがこういった理由から容易に再犯に向かう可能性はどの程度だろう。
実際に制度が施行されないとどう転ぶかは予想がつかない。


このような前提を理解した時、世間はそれでも情報の公開を望むだろうか。
実際は、それでも多数の人が情報公開を望むのではないかと思う。
人は多くの場合、多少リスクが高くても自分で状況をコントロールすることを選択する。
自動車と飛行機では飛行機に乗って死ぬ確率の方が圧倒的に低いのだが、それでも車より飛行機を怖がる人は多い。
その理由の一つは車は自分で運転している(あるいは少なくとも運転している人に自分が影響を与えられる)からだと思う。
仮に情報公開によって再犯率が多少上がるかもしれないというリスクがあっても、その情報によって自分が対策を講じられるはずだという状況を望む人が大勢いるだろう。
この辺はやはり羊堂本舗さんの自分以外はみんな馬鹿あたりとも関係があるのかもしれない。


ここらへんまで考えていたところでちょっと知り合いと話をしたら、「情報を公開するぞって言えば犯罪自体が減るんじゃないの?」と指摘された。
実際に抑止になるかという点は、既に同様の制度を実施した諸国のデータなんかを見れば効果がある程度は推測できそうだ。
いやまったくその通り。ノ(´Д`)
初犯と再犯の違いだけに目が行っていて、厳罰化による初犯の抑止効果ってことをすっかり忘れてましたよ。
まだまだ修行が足りませんね。

*1:再犯率再犯者率はまったく別の数字だという意見があるが、この2つの数字は(犯罪の総数があまり変化していないという大雑把な過程の元で)近似的に大きな乖離はないとみなしていい。(はずだ。間違っていたら教えてください)