日本の生徒の学力は低下したのか

少し前に話題になっていたが、経済協力開発機構が行った国際学習到達度調査の結果、日本の子どもたちの学力が低下傾向にあることが示されたとのことだ。
学力低下は社会基盤の崩壊につながるのでゆゆしき問題だし、最近の子供の学力が低下してきているような気はする。
しかし前回の調査は今回の調査のわずか3年前だ。
全体の学力がたった3年で目に見えるほど変化したという結果にはかなりの違和感を覚える。
そもそも今回の調査は、前回との差が明確に読み取れるような調査になっているのだろうか。


いくつか気になる点はあるが、まず一点目は順位の低下と学力の低下が明確に区別されていない報道が多いことだ。
たまたま土曜日の朝にテレビをつけたらやっていた番組で言っていたが、前回と今回の調査の国別順位の変化、
 読解力 8位→14位
 数学的応用力 1位→6位
というフリップを出して、「これだけを見ても学力の低下は明らかである」と言っていた。
この結果から明らかなのは競争力の低下であって、学力の低下ではない。
僕は小学校6年生のときにクラスで中くらいの身長だったが中学3年生の頃には小さい方から5番目くらいだった。
これを元にして僕の身長が小さくなったという解釈は成り立たない。


もう一点気になるのは、前回と今回では違う問題が出題されたということだ。
比較を行うのであれば、問題は同じでなければ意味が無い。
例えば子供達の体格の国際比較の調査を2000年には平均身長で行って2003年には平均体重で行ったとする。
すると太った人の多い国ほど順位が上昇する。
しかし当然ながら、この結果をもって体格が向上したということは出来ない。
今回の調査では前回と同じ問題が3分の1ほど出題されたそうで、その部分の正答率こそが前回からの学力の変化をあらわす部分になっているはずなのだ。
そこのところの結果が探しても見当たらないのがつくづく残念。


もちろん実世界で要求されるスキルというのは社会の状況で変わっていくものだし、すべて同じ問題を出して前回からの違いだけを測ろうとしたらそれはそれでナンセンスだ。
同じ問題が3分の1というのが社会に必要とされる力を測定するという目的に柔軟に対応しつつ前回からの変化も調査したいというバランスから来ているとすればこれはなかなかいい方針である。
他にも、各国平均が密集しているために順位から印象を受けるほどの差は無いのではないかとか解釈したい領域によっては平均よりも分布の方が重要になるなど考慮すべき点はたくさんあり、問題文そのものや統計ははそこらへんを考慮しているのだと思う。(なにしろ大勢の専門化がすごい予算をかけてやっているのだからそうでなくては困る)
しかし実際に報道される解釈が部分的なものばかりになっているのは非常にもったいない。


それから、冒頭でも触れたテレビ番組でコメンテータが「学力低下とかそんなに心配する必要は無いと思うんですよ。今は選択肢もたくさんあって子供には無限の可能性があるんだから」などと言っていた。
楽観主義も行き過ぎだ。
なんらかの才能がある人にとって教育は時には意味の無い余計な労力であるかもしれない。
しかしなんの特別な才能も無い99%の人たちにとっては教育は社会に出て最低限やっていけるだけの"訓練"なのだ。
算数や英語ができなくても他の選択肢があるなんて言われても、飯が食えるほど歌を歌えたり絵が描けたりできる人間なんてほんのひと握りなのだ。