モンティホールジレンマと問題のあいまいさ

225の推測の後野末理さんがちょっと書いていた件に関して、実は僕も問題の構造が似ている気がしたのでちょっと気にしていた。
二つの封筒に関しては大体まとまりかけてるけどもう少しなので、ひと休みしてこの件についてちょっとだけ書いてみる。

問題文はこれ
>また思い出した事があります。アメリカかどこかの視聴者参加型のテレビ番組での話です。
> 3つの箱があって、その中の1つに豪華賞品が入ってます。
> 参加者は1つの箱を選べます。
> その後、司会者が1つの箱を開けます。これは空箱です。
> そして、参加者に尋ねます。「箱を変えますか?」と
>さて、参加者は箱を交換した方が有利なのでしょうか。それとも最初の選択のままでいたほうがよいのでしょうか。
この問題はモンティホールジレンマと呼ばれている。
掲示板などで話題になる論理パズルとしては二つの封筒の問題よりもちょっと有名かもしれない。

この問題が話題に上ると、まず誰かが「どっちでも同じに決まってるだろ。中学生の問題出すなよ」と反応する。
次にとても頭のいい人か答えを知ってる人が種明かしをする。
反論が出てきて議論が起こって何度かやり取りがあったあとで、大半の人が納得して終了する。
問題自体はちゃんと説明されると二つの封筒の話より理解しやすいので、まず簡単に種明かしをしてしまう。
なので自分で考えてみたい人はここで一旦お風呂に入ってください。

さてどっちが得かというと、実は交換することによって当たる確率は2倍になる。
理由はこう考えてもらうとわかるかと。

 1.最初に適当に選んだ箱の中に豪華商品が入っている確率は3分の1
 2.最初に選ばなかった二つの箱のうちのひとつに豪華商品が入っている可能性は3分の2
 3.2の場合、司会者は豪華商品が入っていない方の箱をあけて見せてくれる。
   つまり司会者が開けなかった方の箱に豪華商品が入っている確率は3分の2のまま

言い方を変えると、参加者は「最初に選んだ箱をそのまま開ける権利」と「最初に選ばなかった二つの箱を両方開ける権利」を天秤にかけていることになる。

こんな単純な問題なんだけど、最初に論争になったときは世界中のたくさんの人たちが勘違いした。
事の起こりはサバントさんという超頭のいい女性(IQ227でギネスブックにも載ってる)が視聴者からの質問コーナーで「交換した方が得よ」と答えたことだったようだ。
ここなんかを見ると当時のやり取りが見られて面白い。
著名な数学者や経済学者なんかもこぞって反論してて、「確率の教科書を最初から読み直すことをおすすめする」とか「数学者が言ってることに素人が異議を挟むな」とかけっこう無茶苦茶書いてある。
どこの掲示板で話題に上っても、だいたいこういう感じで議論が進む。

こんな風にみんなが勘違いするので、経済学の教科書なんかにも取り上げられてる。
「経済学の前提は消費者が合理的な判断を下せるということだが、実際にはこんな簡単な問題でもけっこうみんな間違いますよ」という例としてだ。
ちなみにこの教科書では監修者も勘違いしてしまって、わざわざ「これは間違いで実際は交換しても同じです」とかいう監修者注をつけてしまい、自分のサイトでそれに関する釈明を行っている。

じゃあなぜこんな誤解が生まれやすいのかと言うと、問題の直感的な理解のしにくさに加えて、問題の提示の仕方ではないかと思う。
この問題は典型的には最初に書いたような形で提出される。
箱じゃなくてドアだったり司会者がみのもんただったりするけど、パターンとしては常に番組の進行に合わせた例示で出題される。

海賊の山分けのときも書いたけど、論理パズルは数学ほど厳密じゃないので、問題文が仮定しているドメインを常識で判断することが必要になる。
この問題での暗黙の仮定は、

 −司会者はどれに豪華商品が入っているか知っている
 −最初に選んだ箱があたりでもはずれでも、司会者は残りの二つの箱のうちのひとつを開けて見せてくれる
 −もし選ばなかった二つの箱のいずれかに豪華商品が入っている時は、司会者はその箱でない方を開けて見せる

ということになる。
この問題について掲示板などでみんなが納得したあとも1人で反論そ続けている人がいるが、そういう人の大半はこの仮定が問題文に書いてないとへ理屈をこねていることが多い。

じゃあここで問題です。

 −3つの箱があって、その中の1つに豪華賞品が入ってます。あなたは1つの箱を選べます。
 −司会者はどの箱に豪華商品が入っているか知りません
 −司会者はあなたが選ばなかった二つの箱のうちの一つを開けてみました。するとたまたま空箱でした
 −そして、あなたに尋ねます。「一度だけ箱を変えてもいいですよ?」と

あなたは箱を交換しますか?なぜ?