幸運の宝くじ売り場

1等2億8千万円195本すべて「幸運の町」で

世界最高の賞金総額を誇るスペイン宝くじの1等当たりくじすべてが、地元の言葉で「幸運」を意味する同国北東部の町ソルトで販売された。
(中略)
 1等当たりくじは195枚あったが、すべてこの町唯一の販売店「金の魔女」で売られたとか。(マドリードAP)

これは本当なのかキバヤシー!
というかですね、理系的な表現を使うならばこのようなことは確率的に禁止されているというのです。
つまりこのニュースは記事にする時点でなんらかの重大な情報が欠落しているか、記事自体がインチキであるということでございますよ。
定石どおりグーグルで検索してみると、CNNのニュースが引っかかった。

この町では昨年も、販売したくじの大部分が1等を獲得するなど幸運が続いており、毎年何千人もの人々がくじを買いに遠方からやって来る。そのため、今回のくじの当選者の中にはマドリードマジョルカに住む人もいたと、地元メディアは報じている。

つまりこの町のこの売り場は日本でいえば西銀座チャンスセンターの一番窓口のようなものだということだ。
と言っても、1等195本が全部同じ売り場から出るとしたら、宝クジの全売り上げの99%くらいがこの売り場から出ていないと無理がある。
だいたいCNNの記事の

当選番号は「54600」で、
(中略)
「エル・ゴルド」は1812年に誕生した宝くじで、00000から66000の5桁(けた)の番号があらかじめ割り振られている。スペインでは総人口の約4分の3、もしくは4000万人が宝くじを毎年購入しており
(以下略)

というのも謎だ。
5桁しか無い宝くじをどうやって4000万もの人で分けるのか。


ここでさらに疑ってみるのは誤訳だ。
ニュースは即時性が求められている上に陳腐化が早く、時間がたってから参照されることが少ない。
なので翻訳はけっこう適当になりがちだ。
元はスペイン語だと思うんだが、スペイン語だと読めないから英語のサイトを探す。
どうせCNNジャパンなんか英語版を訳してるに決まってるしな。(適当)
と思ってCNNの英語版のサイトを見てみたが、番号のつけ方に関してもう少し詳しい話が載ってるだけで基本的に同じ内容だった。
ちなみに英語版では

Sort has sold many winning tickets over the years, including many of the top-prize tickets in last year's Gordo. As a result, thousands of people from all over Spain flock each year to the town to try their luck

と書いてあるので、日本語版CNNの「この町では昨年も、販売したくじの大部分が1等を獲得するなど幸運が続いており」というのは間違いで、「この町では昨年も、多くの1等を獲得したチケットが売られた」が正解だ。
ここの記事によるとスペインの宝くじの約1%はこの売り場で販売されているらしいので、多くの1等が出ているのは当然だ。


さて、これでは納得が行かなかった僕は、粘着気質を発揮してグーグルに引っかかったサイトを片端から読んでいったワケだ。
すると、もうちょっと詳しいニュースが載っているLOTTERY POSTというサイトを見つけた。
以下引用。

Each ticket number consists of 195 series, or individual tickets, each approximately the size of a sheet of paper. Each ticket can be sold as one unit, or further divided into ten segments, each called a decima. In this manner, it is possible for hundreds (up to 1,950) of people to share in the prize. Sometimes entire villages take part through the purchase of all the available series bearing one ticket number.

勝手に省略しながら翻訳すると

1つの番号は195のシリーズに別れていて、さらにそれが10個の"デシマ"と呼ばれるサイズに分割できる。
このような仕組みによって1つの番号は最大1950人に共有されることもあるし、1つの番号の全シリーズを1つの町が買い占めることもできる。

ということになる。
このシリーズというのが日本の宝くじだと「組」に相当するもののようだ。
1つの番号が1950個に分割できるということで、売り出されるクジの総数はだいたい2億本ということになり、4000万人で分けることも可能になる。
また、ある特定の番号を団体として全組買い占めてみんなで分け合うようなことができる仕組みになっているということなので、実際に今回は

Beas de Segura, a village of 8,000 inhabitants in the poor region of Jaen, triumphed in the annual El Gordo lottery thanks to the local baker, who bought a half-share in the winning number and sold it on to friends, family and neighbours in smaller fractions.

と書いてあるように、当たり番号の半分ほどをとある町が指名買いしてから転売したということで、残り半分にも同じようなことが起こっていた可能性は高い。
この最初に指名買いしたときの売り場が先ほどの"金の魔女"だということだ。
宝くじがこのような方式で販売される場合は当たりくじの販売窓口が偏ることになんら不思議は無い。


しかしCNNのような大きなニュースソースがこのように統計的な側面を無視してさも「幸運の宝くじ売り場が存在した!」みたいな面白記事にしちゃうのはどうなんでしょうね。
みんなが本気にするからやめてください。